Floating Points 英国の音楽家サム・シェパードことFloating Pointsが、新作アルバム『Cascade』を発表する。前作『Crush』(2019年)の続編として構想された本作は、シェパードがクラブミュージックの本能と再び深く向き合い、ダンスフロアへの愛を新たに燃やした作品だ。 『Cascade』の構想は2022年、彼がカリフォルニアの砂漠でサンフランシスコ・バレエ団との共演作『Mere Mortals』に取り組んでいた頃に芽生えた。テクノロジーを通して「パンドラの箱」の寓話を再解釈するバレエ音楽という挑戦の中で、シェパードは自身の創作を見つめ直していた。「あの頃は、何度も方向転換を繰り返していた時期だった」と彼は振り返る。 前作『Promises』(2021年)は、故ファラオ・サンダースとロンドン交響楽団とのコラボレーションによって、夢幻的で静謐な音響世界を描き出し、各メディアの年間ベストを席巻。マーキュリー賞ノミネート、ハリウッド・ボウル公演のソールドアウトといった成功を収めた。その後も多岐にわたるプロジェクトに携わりながら、昼はバレエ音楽を、夜はクラブの熱気を思い出す――その対比の中で『Cascade』は生まれた。 『Crush』で探求したレイヴ的なエネルギーと実験精神をさらに推し進めた本作は、炸裂するブクラのリズム、グリッチしたメロディ、そして肉体的なグルーヴが躍動する。タイトルの通り、音が流れ、折り重なり、滝のように広がっていく。ジャケットを飾るのは、東京を拠点に活動するアーティスト中山亜紀子による流動的なペインティング――音とビジュアルが響き合う、鮮烈なアートワークだ。 制作環境はこれまでと対照的だった。 「今回はノートPCとヘッドホンだけで作業した。普段のスタジオ機材には頼れなかった」とシェパードは語る。制約の中で浮かび上がったのは、彼の創作の原点――故郷マンチェスターへの深い郷愁だ。地元のレコード店やラジオ局に因んだ楽曲タイトル(“Afflecks Palace”、“Key103”など)は、少年期に体験した音楽教育の延長線上にある。 「昼休みに学校を抜け出して、レコードを聴きに行ってた。店員には迷惑だったと思うけど(笑)、あれが僕の“もう一つの学校”だった。」 『Cascade』の収録曲は、8分に及ぶトラックも含め、音とグルーヴの広大な地平を描き出す。ハープの旋律が電子音に溶け込む“Afflecks Palace”、催眠的なリズムに導かれる“Del Oro”、“Ocotillo”など、作品全体が感情の浄化と再生をテーマにしたサウンド・スケープを形成している。 終幕を飾る“Ablaze”のアンビエントが静かに燃え尽きる頃、聴き手は彼の歩んだ実験の軌跡と、新たなクラブ・ミュージックへの回帰を確信するだろう。 デビュー作『Elaenia』からおよそ10年。Floating Pointsは今、クラブと実験、感情と知性、電子と有機――そのすべてを縫い合わせる方法を見つけ出した。『Cascade』は、その集大成であり、新たな始まりである。
Sumber: Wikipedia